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ドロップ・オブ・ロゼ 〜薔薇の涙〜

第18章 Pure White



俯いた視界に突然割り込んできた加納雅の指先が頬に触れた。



雅「泣かないで…」


「泣いてなんか……!」


雅「私も…この先ずっと好きな人と生きていきたい、一緒に過ごした証が欲しい、って思うけど…」



加納雅の、冷たくて黒い硝子玉のような瞳から涙が落ちる。



ぽたぽたと、梅雨空に咲く紫陽花の葉先を滑り落ちてゆく雨粒のような綺麗な涙が頬を滑り落ちてゆく。



あまりにも絵画的な美しさに僕は、知らずに彼女の頬に残る跡をなぞっていた。



「そう言えば、絵を描いて欲しい、って言ってたっけ?」


雅「…うん。」


「今の君を描きたくなった。ダメ…かな?」


雅「今は…イヤ。誰かに見られるかも知れないから。」


「でも、二人っきりになるところはダメだよ?変に思われるし?」


雅「それに、私に襲われそうだから?」


「それもある。」


雅「酷い。普通、千陽さんが私を、でしょ?」


「自分で言ったんじゃない?僕の顔を見たらいっつもキスしてくるくせに?」


雅「だって…してほしそうな顔してるから。」


「してないから。」



悪戯っぽく微笑んだ顔が妖艶に歪み、白く細い指先が頬を包んだ。



雅「ほら…今の顔がそう…」


「してな…」



唇に柔らか感触が重なって、言葉の出口を甘く塞いだ。



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