ドロップ・オブ・ロゼ 〜薔薇の涙〜
第3章 マドンナ・ブルー ②
ナイフの刃先を頬に当てられたまま、
ただでさえ薄暗い公園の中のさらに奥へと、声の主と共に進んでゆく。
「手荒な真似はしない」…って、この人、僕をどうするつもり?
やがて、灯りが全くといっていいほど届いていない林の中で足が止まった。
「服を…脱いでください。」
「えっ?」
「聞こえませんでしたか?」
カチカチと、耳元で刃先を出し入れする音が不気味に響く。
「着ているもの全部脱いで、裸になってください。」
え?裸…になる?
と、声に出して問うたつもりが、声になって出て来ることなく、喉の奥で浚巡していた。
この人、僕のこと…?
この期に及んで、全身を寒さからくるものではない震えが襲う。
「早く…!」
「あっ……!!」
声の主に突き飛ばされ、地面に両手のひらを強かに打ち付け、そのまま両手で体を支えるように地べたに座り込み、彼を見た。
え……この人は確か…
この間、店で…!?
釣り銭を渡そうとした時に僕の手を握ってきた…!
「お願いですから…」
小刻みに震える僕の頬に押し当てられた刃先は、
頬の皮膚を僅かに切り裂いた。