
ドロップ・オブ・ロゼ 〜薔薇の涙〜
第21章 薔薇と百合の一夜 ①
雅「ほんとスキだらけ…」
唇が離れて見た彼女の顔は今まで見たことがないぐらいに綺麗で、
その綺麗、という言葉さえ陳腐に思えるほどだ。
雅「ほら見て?彼処にお城みたいな建物が見えるでしょ?」
「あ、ああ…」
うっかり見惚れていると、白くて細い指先がテーマパークで見たことのあるような可愛らしい造りのお城擬きの建物を指し示した。
雅「行こ?」
僕の手を引き歩き出す彼女に付き従う。
時折僕を振り返り笑う彼女は、
今、どんなことを考えているのだろう。
雅「千陽さん?」
「え?あ…な、何?」
名前を呼ばれ我に返る。
気づけばもう僕たちはホテルのフロントの前にいて、彼女の手の中にはもう、部屋の鍵が握られていた。
雅「もう!何、じゃないでしょ?」
「…ごめん。」
僕の指にそっと絡められる細くて白い指先。
振り払おうと思えば出来ないこともないのに出来なかったのはどうしてなんだろう。
雅「ここだ。」
静まり返った建物の中に、鍵の開く音だけがやけに大きく聞こえた。
雅「どうぞ?」
おどけた調子で彼女が僕に恭しく頭を下げ、僕を中へと誘導する。
雅「シャワー…どうする?」
振り返ると、
此方に背を向けたままの彼女がそこにいた。
