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ドロップ・オブ・ロゼ 〜薔薇の涙〜

第23章 月夜に霞む



シャワーのあと、ぼんやりテレビを見ていたらうたた寝してしまったらしく、時刻はゆうにてっぺんを過ぎていた。



やべ、寝なきゃ。



体を起こそうとすると、俺の肩からずるり、と何かが滑り落ちる感触と、柔らかなあの人の香りが漂った。



帰ってきてんのか!



慌てて飛び起き、その姿を探す。



キッチン、寝室、トイレと、



まるで、何かに取り憑かれたようにその姿を探し回った。



カチャリ、と、バスルームのドアが開く音がして、



バスタオルで少し長めの髪を拭きながら彼が姿を現した。



狭い部屋の中、何処に逃げられる訳でもないのに走り寄りその細い体を抱きしめた。



もう、何処にも逃げないように。



逃がさないように。



「お帰り。」


千「た、ただいま…」



驚いたように見返す目。



でも、それはすぐに柔らかく細められて、温かい眼差しと共に此方に灌がれる。



「ごめん…」


千「どうしたの?」



姿を見つけた安心感からか涙が止まらない。



宥めすかすように回された彼の腕に包み込まれて尚、涙が止めどなく溢れてくる。



「千陽さん…」



俺の…





俺の側にいて。



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