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ドロップ・オブ・ロゼ 〜薔薇の涙〜

第24章 殉愛



圭太side


「…………。」



声を震わせ、忍び泣く姿を何度見たことか。



いつもだったら、後ろからその細い体を抱きしめ、どうしたの?とか、何で泣いてんのとか、って聞けたのに、



何故だか足が動かない。



得たいの知れない何かが俺の足を捕まえて離さないかのように。



……いや、違う。



あの日から、



あの事件の話を聞いてからのあの人を見ると何故だか俺は動けなくなるんだ。



本当は一人、暗闇の中で咽び泣いているあの人を抱きしめてあげたいのに、



冷えた心と体を温めてあげたいのに俺は、



俺たちの進む道の先に見える光が、もしかしたら違うものなんじゃないか、って思い始めていたんだ。





ダメだダメだ。こんなんじゃダメだ、って気持ちを鼓舞してみたけどやっぱりダメで、



俺は微かにあの人の体温と匂いが残るベッドに潜り込んだ。



もう少しで眠りに落ちそうになっていた時、俺の背中に冷えきった指先が触れた。



びくり、と跳ねた俺の背中に驚いたあの人がごめん、と呟く。



「どうしたの?体、スッげぇ冷たいじゃん?」


千「うん…ちょっと……」



その細い体を腕の中に納めると千陽さんはゆっくりと息を吐いた。



温かい、って。



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