
ドロップ・オブ・ロゼ 〜薔薇の涙〜
第4章 君の背中には羽がある
「後ろ乗って?」
俺は引くぐらい落ち込んでいる彼を後ろに乗せ、自転車に跨がった。
二人乗りなんて、ホントはダメなんだろうけどさ?って、俺の言葉なんて聞いてないみたいに目は虚ろで、
彼は俺に言われるまま、自転車の後ろに腰掛け、俺の体に両腕を巻き付けてきた。
そして、俺の背中に顔を押しつけ、小さく鼻を啜った。
泣いてる…?
そして、やがてそれは続けざまに、グスングスン、とはっきり聞こえてきた。
千「この自転車、高校の合格祝いに大好きな伯父さんに買ってもらったんだ。」
「へぇ…」
聞き流すみたいに、ペダルに足をかけ漕ぎ始めた。
千「でも…」
ちょうど赤信号に差し掛かった時、ちょうど彼の言葉が途切れて、
ほんの少し、回された腕に力が込められるのを感じた。
千「…死んじゃったんだ。」
すぐ目の前を横切る車の音よりも小さな声だったけど、
俺はその声を聞き逃すことはなかった。
千「…病気だったんだ。」
信号が青に変わる。
でも、俺の足は動かなくて、
再び点滅を始めた信号が赤に変わるのを黙って見ていた。
