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ドロップ・オブ・ロゼ 〜薔薇の涙〜

第25章 分水嶺



「じゃあ、あの絵はお母さんへのプレゼント……」


「それが……絵は……刃物か何かでズタズタに……。」



言葉を失ってしまった。



あんなに心を込めて描いた絵を…?



「しかも、私があの子の誕生日に送った服を着てた絵でした…しかもその服は……病院に運ばれた時にも着ていたみたいで……。」



プレゼント……そうだったんだ。あの白のワンピース……。



「そう……でしたか。」



絵を台無しにされてしまったことには衝撃を受けたしガッカリしたけど、



この人もそれぐらい……いや、それ以上は衝撃受けたろうなと想像するだけで、胸が痛んだ。



「で、今日、先生をお訪ねしたのも実はお願いがあって……」



慰めの言葉をかけようと口を開きかけた時、必死な形相の彼女に言葉を遮られる。



「一度娘に会って頂けないか、と思いまして?」


「え?」


「実はあの子…今までの記憶が全くないみたいなんです。」


「記憶が……ない?」


「ええ。事件のことはもちろん、自分が何者なのかさえも…母親の私が誰なのかも…」


「僕は彼女の担任でも何でもありません。そんな僕が顔出したりなんかして大丈夫でしょうか?」


「記憶をなくしたフリをしているかもしれないんです。だから、娘の絵を描いて下さってるくらいのお付き合いがあるなら…」


「仮にそうだとして、何のために僕を?」


「私を困らせるために、記憶を失ったフリをしてるかも知れないんです。」



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