
ドロップ・オブ・ロゼ 〜薔薇の涙〜
第25章 分水嶺
ほぼ、ベッドしかないと言ってもいいぐらい、殺風景な部屋に彼女はいた。
学校には途中、急に体調が悪くなって、病院に行くので遅れていく、と伝えていた。
事実、今病院にいるのだからまあ、ウソではない。
「どうぞ。」
彼女のお母さんに促され、じっと窓外を見つめたまま動かない彼女へと歩を進めた。
微動だにしない小さな頭。
勧められた椅子に腰かけしばらくしてもこの時間が止まったような状態は続いていた。
やがて気配に気づいた彼女がゆっくり振り向く。
生気のない瞳。
頬に貼られたガーゼが痛々しい。
「雅、先生がお見舞いに来てくださったわよ?」
すると彼女は目を見開き母親と僕を見比べた。
雅「せん…せい?」
彼女はしばらく僕のことを穴が空くほど見つめたあと、少し困ったように微笑んだ。
雅「ごめんなさい。思い出せなくて…先生、って?」
フワリ、と笑う。
僕の姿を認めても、微塵の緊張感も感じられない。
「酷いな?もう忘れたの?」
そうか、
彼女の中の「彼女」は、彼女の手によって、
「君の絵を描いた「先生」だよ?」
抹殺されてしまったのだ。
