
ドロップ・オブ・ロゼ 〜薔薇の涙〜
第25章 分水嶺
あの日、
彼女に誘われるままホテルに行った日。
彼女は、僕との行為が「儀式」なのだと言った。
だから、今回のような凶行に走ったことも……
覚悟の上だったに違いない。
「あの……お母さん。」
おもむろに話しかけられた彼女のお母さんはとても驚いた顔をして僕を見た。
「席を外して頂いても宜しいですか?」
母「え…でも……」
「少し、話がしたいんです。」
母親は不安そうな顔をしていたが、病室から出ていってくれた。
「ねぇ、加納さん。」
僕の呼び掛けにも、窓外を見つめたまま微動だにしない。
「どうしてあんなことしたの?」
お母さんの姿が見えなくなったら、
もしかしたら、「フリ」とかしていたら話してくれるんじゃないか、って思っていたけど、
そんな淡い期待は脆くも崩れさる。
顎の位置より少しだけ長く伸ばされた綺麗な黒髪が少しだけ揺れて、
吸い込まれそうなほど透き通った目が僕に向けられる。
そして、見たこともない満面の笑みを浮かべこう言った。
雅「あの先生?」
「はい…?」
雅「私を誰かとお間違えじゃありませんか?」
「え?」
雅「だって…私はあなたを存じません。もし、知らないうちに迷惑をかけていたなら謝ります。」
「あの…」
雅「……すみません、もうお帰りいただいても?今日は少し疲れてて…」
