
ドロップ・オブ・ロゼ 〜薔薇の涙〜
第25章 分水嶺
「あ……ああ、ごめん。」
立ち去ろうとして、やっぱりどうしても納得がいかなくて僕は、
こんなことを口走っていた。
「その……覚えてない、って、いうのは……僕と将来を約束したことも覚えてない、ってこと……かな?」
雅「え…?」
もちろん、そんな約束なんてしていない。
「僕に…抱かれたことも。」
ましてや、そんな事実さえない。
あの夜、僕らは繋がらなかったのだから。
雅「そう……でしたか。私、先生とそんな関係だったんですね?」
咄嗟に思い付いた嘘。
例え事実だったとしても、お母さんにはずしてもらって正解だった。
雅「じゃあ…私と何処かへ逃げますか?」
再び向けられた笑顔は、
すべてを諦めたみたいに悲しそうに見えて胸が締め付けられた。
彼女は僕と逃げるつもりなんて端っからないだろう。
くくっ、と、楽しそうに笑った。
雅「……本気にしました?」
「酷いな…?」
雅「酷いのは嘘をついた先生です。」
「どうして分かったの?」
雅「だって…」
再び彼女は窓外へとゆっくり視線を移した。
雅「仮にそうだったとしたら先生がここに来るはずないもの。」
