
ドロップ・オブ・ロゼ 〜薔薇の涙〜
第25章 分水嶺
「そう……かな?」
雅「……そうですよ?だって…その証拠に先生、ケガしてないでしょう?」
どう意味なんだろう?と訝っている僕に彼女は部屋着の袖を捲った。
雅「これ……」
細い手首に幾重にも巻かれた真っ白い包帯。
雅「と、これ……」
指差した襟元からちらつく包帯の白。
雅「私…多分、死のうとしたんだと思います。」
包帯の巻かれた左手首を右手でぎゅっと握りしめた。
雅「……好きな人を殺して。」
僅かに上げられた目線。
その先には僕ではない、誰かがいるようだった。
やっぱり……やっぱり君は…
喉から出かかった確信の言葉を、ドアをノックする音が押し止める。
「すみません、先生、そろそろ……」
申し訳なさそうに、母親が僕の背中越しに奥を伺う。
「すみません、長居をしてしまって?」
「いえ…あの…先生?」
「はい?」
「この度は大変ご迷惑をおかけして本当に申し訳ありませんでした。」
「あ……いえ。僕は全然……」
「実は私…この子を連れて日本を離れようと思ってるんです。」
