
ドロップ・オブ・ロゼ 〜薔薇の涙〜
第25章 分水嶺
「え…」
思わず背後にいる彼女を振り返る。
やっぱり彼女は窓外見ていた。
顎のラインまでしかなかった彼女の髪は肩先を覆い尽くすまでに伸び、
まるでケープのように首回りに纏わりついていた。
それはそうと……
彼女がケガさせた田嶋先生は……?
彼女はどうなったのだろうか?
大人しく彼女の母親に従い、病室を出てから訊ねてみた。
すると、困ったように顔を曇らせながらも教えてくれた事実に僕は胸を撫で下ろした。
「幸い、軽いケガですんだそうで。今回のことは穏便にすませてくれると伺ってます。」
「そうですか…よかった。」
田嶋先生、無事だったんだ。
「……ですが、ご本人の精神的ショックが大きすぎて、あちらのお身内がもうこれ以上、ことを長引かせたくない、ということが本音みたいで…。」
だから、日本を離れるのだ、と。
そもそも、実の娘とどうして離れていたのか、というと……
「あの子は家庭のある男性との間に出来た子なんです。」
しかも、大学生の時に同じ大学の教授を好きになって出来た子で、
母親は大学を辞め彼女を出産したが、やはり夢を諦めることが出来ず、娘を実家の両親に預け日本を離れた。
「アメリカで精神医学の勉強をしたくて……」
でも、自分の夢と娘の将来を秤にかけた結果、たくさんの人に迷惑をかけることになって後悔している、と。
