
ドロップ・オブ・ロゼ 〜薔薇の涙〜
第25章 分水嶺
「自分の娘のことを一番理解していなければならなかったのに専門家として恥ずかしい。」
身勝手だったが、身をもって自分の愚かさを思いしった母親は、
母と子、二人、
離れていた時間を取り戻していくのだ、と。
もう、遅いかもしれませんけどね?と、母親は悲しそうに微笑った。
数日後、
加納雅は学校を去っていった。
とは言っても、彼女自身が自ら出向き挨拶に来たわけではない。
学校を去るのは、彼女の意思だったかもしれないが。
「田嶋先生、学校を辞めるそうですね?」
佐藤先生がこっそり耳打ちしてきた。
「それはそうですよね?あんな騒ぎになってしまったんだもの。」
「……そう……ですね?」
事件の前後から田嶋先生とは会っていない。
加納雅の母親から怪我の程度を聞かされたこと以外、詳細も何も分からない。
元気にしているのかさえも。
加納雅に至ってはもう日本にはいないらしくて、
学校に挨拶に来たその足で出国したのだそうだ。
この一連の騒ぎの結末、
もしかしたら、彼女が仕組んだのじゃないか、って、
彼女が望んだことなんじゃないか、って信じて疑っていなかった。
その証拠に彼女は、
記憶なんて失っていなかったのだから。
