
ドロップ・オブ・ロゼ 〜薔薇の涙〜
第4章 君の背中には羽がある
まさか、他に要求があるんじゃ…、って一瞬思った。
もし、そうなら容易に預けるんじゃなかった、って…。
駐車場の隅に置かれた僕の自転車。
割れてしまったライトはもちろんのこと、
隅々までピカピカに磨かれていて、見た感じ新品と変わりない。
彼が託したというその人の、自転車に対する愛情さえ感じる。
でも、昨日の今日で直してくれるなんて…。
あわや、というところを助けてもらっただけじゃなく、こんなことまで…
でも、ある疑問が浮かぶ。
そう言えば、やたらとタイミングよすぎなかった?
どこかで僕の様子を見ていなければ、あんなドラマのヒーローみたいな登場なんて出来ないはず。
今度あったら聞いてみなきゃ。
僕は、自転車を店の裏に移動させ、仕事に戻った。
その日一日を何事もなく終え通用口から出ると、少し制服を着崩した彼が壁にもたれて立っていた。
圭「お疲れ。」
「うん…」
圭「家まで送るよ?」
「あっ!!あのっ…!」
歩き出した背中がピタリと止まる。
「昨日はありがと。」
圭「どういたしまして。」
「それから、修理代…」
彼は、うーん、と伸びをすると、振り返り笑った。
