
ドロップ・オブ・ロゼ 〜薔薇の涙〜
第5章 秘色
千「どう?悪い話じゃないでしょ?」
「イヤッ…でも…それは…」
彼の提示した条件。
それは、今度のテストで、今以上の結果を出せたら…と、いう、手放しでは喜べないけど、悪くない話。
千「じゃあ、この話はなかった、ってことで…。」
急に険しい顔付きになって背を向けた。
「あっ…まっ、待って?」
立ち去ろうとする背中を捕まえ振り向かせる。
「やります。頑張ります。」
千「ほんと?」
あれ?さっきの人誰?ってなぐらいな満面の笑み。
千「…よかった。ものわかりがよくて。」
と、先ほどと同じような甘い微笑みを浮かべながら、俺の体にしがみついてきた。
千「頑張って。応援してるから。」
あと少しで彼の唇が、というところで、煩いぐらいに俺を呼ぶ声が聞こえてきた。
何だよ!?今、いいとこなのに…
振り返って声の主を確認している間に、目の前にいるはずの彼の顔が、
お袋の般若面に刷り変わっていた。
「わあっ!!」
ベッドから転がり出てきた俺に呆れ顔のお袋が畳み掛ける。
「何をそんなに驚いてるの。早く起きて顔洗ってらっしゃい!!」
全く、着替えもしないで寝るなんて、と、
お袋はぶつぶつ言いながら部屋から出ていった。
