
ドロップ・オブ・ロゼ 〜薔薇の涙〜
第5章 秘色
遅刻しそうだった、ってのもあったけど、
あんな近いところに顔なんかあったら俺…
「ハァ…」
『キスしていい?』
あの顔で、あの声で、あのフレーズを実際に言われたら俺…
立ち止まって自分の唇に触れてみる。
夢の中の、あの時の彼の体温がまだそこに残っているようで、
息が……つまりそうだった。
結局、ホームルームには間に合ったけど、
コンビニで買ったものには手をつけていなくて、
昼休みも、何をするわけでもなく、屋上でごろり、と仰向けに寝転がって、流れる雲をぼんやり眺めていた。
慎「よお…圭太。」
突然、視界に割り込んでくる見慣れた顔。
慎「どうしたどうした?魂抜かれたみたいな顔して!?ああ?」
「うん…」
隣に座りながらパンの袋を破り半分に千切って俺に手渡す。
慎「もしかして…マジになっちまったか?例のカノジョに?」
「…かもしんない。」
慎「ふーん…そっか。」
慎之介が最後の一口かもしれない紙パックの牛乳をじゅるじゅると吸い上げ、そいつを脇におく。
慎「で?もうコクったのか?そのカノジョに?」
