
ドロップ・オブ・ロゼ 〜薔薇の涙〜
第5章 秘色
アパートの駐輪場にあの人の自転車はあった。
少し薄暗くなってきていたせいか、部屋の明かりもついていた。
よしっ!!
気合いを入れ、彼の部屋の前へと歩を進める。
そして、ドアの前に立ち止まり大きく息を吸い込み、ドアの呼び出しベルに恐る恐る手を伸ばした。
でも、震えて上手く押すことができない。
仕切り直すつもりでまた、大きく息を吸い込む。
何度も何度も吸い込む。
そうして、再び呼び出しベルに手を伸ばした。
千「はい?」
パタパタと、小走りで近づいてくる足音。
少し、間があって、ガチャガチャと鍵を開ける音がした。
千「圭太くん、どうしたの?」
半分だけドアを開け、彼は不思議そうに俺を見あげた。
「あっ!…ち、ちょっとそこまできたからついでに持ってきたんだ。」
千「そう。ありがと。」
彼は請求書を手渡すと早速中を開け確認していた。
でも請求書を渡してしまったことで手持ち無沙汰になってしまった俺は、その時間がやたらと長く感じてしまって、
どうしたらいいのか分からず、そんな彼をただぼんやり眺めていた。
すると、不意に顔を上げた彼と目があい、柄にもなく焦ってしまう。
千「あ、もしよかったら上がってく?時間があるんだったらの話なんだけど?」
