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淡雪

第10章 想いを遂げる

僕は扉の前で呆然と立ち尽くしていた...


扉の向こうの影が動いたことも気付かず

開いた扉から出てきた人物と出くわした。


「坂井くん...」

僕は渡部さんに何も言葉を返せなかった。

渡部さんは僕の肩を叩き静かに歩いていった。


「やっぱり、来ましたか」


医師は分かっていたように部屋に招いた。


「随分と時間がかかりましたね」

医師は微笑みながら椅子を勧めた。


「何を聞きたいですか?」


「あの...

 僕の肘を治してくれたのは...」


医師はゆっくり頷いた。


「そう。彼女です」


「...やっぱり...」


僕は何を言葉に出していいかわからず
唇を噛み締めていた。

医師は何も言わず俺が落ち着くのを待ってくれていた。


「俺はずっと彼女を探していました。

 野球を頑張ったのも甲子園に出場すれば彼女が会いに来てくれるかもしれないと思ったからです。

 芸能人になったのだって...」


「でも、彼女は覚えていなかった。

 そのうえ貴方を避ける行動を取っていた」


「はい...」


「仕方のないことです。
 彼女が本能的に貴方を守り自分を守った」


「僕は彼女に近づいてはいけないんですか?」

医師はゆっくり僕から視線をはずした。


「彼女が求めていない以上

 そうすべきですね」


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