淡雪
第12章 プロポーズ
私は躊躇した。
しばらく私の記憶から消えていたこの場所。
外に出たらどうなってしまうのだろう。
あの時の感情がまた甦ってしまうのだろうか...
私は助手席に座ったまま動けずにいた。
坂井くんが助手席のドアを開けた。
驚いて彼の顔を見上げる。
「もし何かあったらすぐに言って」
にっこり笑って彼は手を差し出した。
私は彼の手を取り、外に足を踏み出した。
例の場所からは少し離れている。
温かな陽に心が落ち着いてゆく気がした。
「大丈夫?」
彼が私の顔を覗きこむ。
「平気みたい」
私は笑顔を返した。
二人で手を繋ぎゆっくりと土手を降りる。
下のグランドでは少年野球チームの試合をしている声が川面に大きく響いている。
私たちは土手に座って暫く子供たちを眺めていた。
「俺も子供の頃ここで練習してたんだ」
坂井くんが子供たちを眺めながら言った。
「週末、母さんや父さんに自転車の後ろに乗せてもらって来てた。
小さい頃はイヤで仕方なかったよ。
泥だらけになるし、夏は暑いし冬は寒いし
失敗すれば怒られるし。
なんでこんなことしなきゃいけないのかってずっと思ってた。
だけど試合で初めてヒットを打ったとき
応援席で跳び跳ねて喜ぶ両親が見えてさ
コーチや他の保護者までも両親と手を取って喜んでいるんだ。
両親があんなに喜んでくれるなんて思ってもみなかったからすごく嬉しくなって。
自分が野球を頑張ることで喜んでくれる人がいるって初めて知った瞬間だった。
それから一生懸命練習するようになった。
気がつくと俺はチームのエースになってた。
“坂井がいれば大丈夫”、“坂井はやってくれる”
みんながそう言うようになっていた。
みんなの期待を裏切りたくなくてそれこそ毎日必死で練習してたよ」
坂井くんは子供たちをぼんやりと見ながら記憶を手繰るように話し始めた。
しばらく私の記憶から消えていたこの場所。
外に出たらどうなってしまうのだろう。
あの時の感情がまた甦ってしまうのだろうか...
私は助手席に座ったまま動けずにいた。
坂井くんが助手席のドアを開けた。
驚いて彼の顔を見上げる。
「もし何かあったらすぐに言って」
にっこり笑って彼は手を差し出した。
私は彼の手を取り、外に足を踏み出した。
例の場所からは少し離れている。
温かな陽に心が落ち着いてゆく気がした。
「大丈夫?」
彼が私の顔を覗きこむ。
「平気みたい」
私は笑顔を返した。
二人で手を繋ぎゆっくりと土手を降りる。
下のグランドでは少年野球チームの試合をしている声が川面に大きく響いている。
私たちは土手に座って暫く子供たちを眺めていた。
「俺も子供の頃ここで練習してたんだ」
坂井くんが子供たちを眺めながら言った。
「週末、母さんや父さんに自転車の後ろに乗せてもらって来てた。
小さい頃はイヤで仕方なかったよ。
泥だらけになるし、夏は暑いし冬は寒いし
失敗すれば怒られるし。
なんでこんなことしなきゃいけないのかってずっと思ってた。
だけど試合で初めてヒットを打ったとき
応援席で跳び跳ねて喜ぶ両親が見えてさ
コーチや他の保護者までも両親と手を取って喜んでいるんだ。
両親があんなに喜んでくれるなんて思ってもみなかったからすごく嬉しくなって。
自分が野球を頑張ることで喜んでくれる人がいるって初めて知った瞬間だった。
それから一生懸命練習するようになった。
気がつくと俺はチームのエースになってた。
“坂井がいれば大丈夫”、“坂井はやってくれる”
みんながそう言うようになっていた。
みんなの期待を裏切りたくなくてそれこそ毎日必死で練習してたよ」
坂井くんは子供たちをぼんやりと見ながら記憶を手繰るように話し始めた。