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淡雪

第12章 プロポーズ

「ねえ、璃子さん」

坂井君が笑顔で立ち上がった。

「明日から京都だから

 買い物に行きたいんだ。

 付き合ってよ」

そう言って私の手を引いた。

「無理だよ。

 誰かに見られちゃうよ」


坂井君は

「いいんだ。


 見られたいんだ」


と少し寂しげに笑った。


私は何も言えず

坂井君に手を引かれたまま

車の助手席に戻った。


行きの車とは一変。

坂井君は押し黙ったままだ。


車に流れるクラプトンが切なさを助長する。



「寄りたいところがあるんだ」


そういって坂井君は住宅地へ入っていった。

一軒の家の前で停まる。

表札には

”坂井”


ーー実家?!


驚いて坂井君を見る。

「荷物があって」

坂井君はさっさと車を下りてしまう。

ーー実家なんて
  心の準備ができてないよ!!

車で待ってたほうがいいかな?
でも、挨拶はしたほうがいいよね

ひとりでごちゃごちゃ考えていると

「璃子さん降りてきてよ」

ーー今度はドアを開けてくれないの?


私は恐る恐るドアを開け
坂井君の後についた。



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