テキストサイズ

淡雪

第13章 愛されること

東京駅までの30分
車内は無言だった。

マネージャーが八重洲口に車をつけると
僕はスライドドアを開けた。

「いってきます」

捨て台詞のようにぶっきらぼうに言って
ドアを閉めようとしたとき

「俺は明日の朝現場にいくから。

 さっきの話は絶対に他言するなよ。

 特にプロデューサーや監督の耳になんか入ったら大変だから。

 とにかく、社長と相談するから
 それまでは安易に口にするなよ」

マネージャーは目力を強めて
俺に有無を言わせぬ口調で釘を指してきた。

「わかりました」

そしてフッと表情を緩めると

「まあ。お前にはもう少し色気がほしいからな

 お前の希望が叶うように
 なんとかみんなで考えてみるよ

 頑張ってこい。

 槙さんに良いとこ見せたいだろ」

そう言って笑った。

俺は一瞬ビックリしたけど

「槙さんが惚れ込むような演技をしてくるから」

そう言ってマネージャーに向かって親指をたてた。

ーーそうだ
  俺は璃子さんに惚れられる男にならなきゃいけない。
  今は璃子さんを追いかけている俺だけど
  璃子さんに愛される男になるんだ


マネージャーに背中を向けると
背筋を伸ばして歩き始めた。


ストーリーメニュー

TOPTOPへ