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淡雪

第16章 崩壊

ーー坂井くん...

目覚めると坂井くんの腕の中だった。

彼の辛さが痛いほど伝わってくる。

坂井くんの腕をそっとどかして
ベッドから抜けようとする。


「璃子さん...

 今日は休んで」

まぶたを閉じながら
そう坂井くんが呟く。


「そうもいかないから」

坂井くんの髪をそっと撫でた。

バッと腕を捕まれる。


「ごめん...

 僕のせいで ごめん...」

坂井くんが辛そうな目で私を見る。


「坂井くんのせいじゃないよ」

そういって坂井くんにキスをした。


「璃子さん...」


迷子の子犬のような目で見つめる坂井くん。


「これが私の仕事。

 誰のせいでもないの。

 心配かけてごめんね」


「璃子さん...」


「大丈夫」


そういってベッドを離れた。


正直辛くない訳じゃない。

だけど引き受けた仕事だから仕方ない。


まだ夜明け前。
今日の現場は早い。

支度を済ませるとそっと部屋を出ていこうとした。


「璃子さん...」

まだ眠そうな坂井くんが
悲しげな瞳で立っている。

「大丈夫、行ってくるね」

無理に笑って坂井くんに手を振った。


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