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淡雪

第19章 危険なガーディアン

数年前に撮影された映画...

あの頃も俺は多忙を極め、正直この撮影の記憶があまりない。

改めてこの作品を見てみると...

相当独りよがりな演技だったことがわかる...

主演の二人はとてもいい演技をしているのに脇役の俺が“田村”を出しすぎていて完全に二人の演技を邪魔している...
俺は良かれと思ってやっていた。
“田村が田村で何が悪い”
そう思っていたが...
とんでもない思い上がりだったことに気付かされる...
恥ずかしい...

上映後会場内には大きな拍手が沸き起こったが
スタンディングはなかった。

俺たちは立ち上がり観客に頭を下げる。

俺は...申し訳ない気持ちで
頭があげられなかった。


「どうした 田村くん」

監督が優しく俺の肩を叩く。


「俺、こんな最低な演技してた。

 すみませんでした」

そしてさらに腰を折る。


「そう思うか?」


監督の声は優しい。


「とにかく頭をあげろ。

 お客さんが帰れないだろ」


僕はゆっくり頭をあげた。


監督と主演の二人が優しく笑っている。


「あの時の君にこれ以上の演技ができたか?

 世間は“アイドル田村”を求めていた。
 君は必死にその要望に応えていただけだ」

監督はそういって僕の背中を押して退席を促す。

会場の扉の前で観客を出迎え、感謝の言葉をかけてゆく。

ほとんどの観客が帰りかけているなか
一人の女性が僕の前で立ち止まった。




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