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淡雪

第20章 スターの代償

俺は言われた意味が分からなかった。

用のないパーティーに長居する必要もない。

ホテルに戻りシャワーを浴びて璃子が戻る前に早々に寝てしまった。

今は璃子に会いたくなかった。

知らぬ間に俺のずっと先を生きている璃子。

自分の力でチャンスを掴み取っていく璃子。



朝陽が昇るのと同じ頃
俺はホテルを出てレンタカーを借り
この虚飾の街を抜け出した。


海岸線を走る。

時おり車を止めて何もない誰もいない荒削りな地中海を眺める。


たった一人潮騒に抱かれていると
いろんな呪縛から解き放たれた気がした。


小さな街にホテルを見つけ宿を取る。
小さな部屋にベッドとカフェテーブルと椅子がひとつあるだけの部屋。


こんな部屋に泊まるのさえ贅沢だった時代があった。


いつの間にか“田村凌哉”が一人歩きして
俺はその感覚に違和感を覚えながらも
必死に食らい付いていた。


そしてまた最近感じる迷い...

このままアイドルで終わるのか...

いや...いつまでアイドルでいられるのか...


売れたらこの不安は消えると思っていた。

でもこの不安は常に俺の足元にあり
その簿氷はパリパリと音をたてながらヒビ割れ俺を冷たく深い海の底へと落とそうとする。


不安と闘い続ける日々。

それがいまの俺を作ってきた。



人とすれ違うこともない小さな町。

海まで歩き

日が沈むまで物思いに耽っていた。


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