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淡雪

第21章 陵ちゃんの幸せ

暑さも落ち着いた頃兄さんたちの結婚式は挙行された。

「いい式だったね」

帰り道、車の助手席で嬉しそうな璃子さん。

「やっぱり陵ちゃんカッコ良かった!」

興奮してキラキラした目で俺を見る。
胸の前で組んだ手を左右に振って...
璃子さん、目がハートです...

璃子さんだけじゃなく、どこで聞き付けたのか兄さんのファンが最後の見納めにと教会前を占拠していた。兄さんのワンショットを収めたスマホやカメラの写真や動画を何度も見つめながら泣いている女性もいた。
兄さんが芸能人だったらそれこそ『陵ちゃんロス』は社会現象だっただろう。

確かにDio のタキシードを着た兄さんは俺も見惚れるほどカッコ良かった。
それは認めるけどね、自分の愛する人がそれを見て目をハートにしているのは...穏やかではいられない。

「まさか、マッドが来るとは思わなかった」

璃子さんが思い出したように呟いた。

「ほんとな。
 しかも口説きに口説いて兄さんに東京コレクションの出演を承諾させるとは...」

そう。マッドにウェディングドレスとタキシードを頼むとき、彼に兄さんの写真を見せたとたん、どうしてもショーに出したいと言い出し、答えを渋る璃子さんに業を煮やして結婚式にやって来てしまった。

そしてもうひとつ...
「璃子のウェディングドレスを5年も前に作ってあるのにまったく連絡がない!
黄ばむ前に着せてやれ!」
と俺へのクレームも。
もしかしたらこっちが本当の用事だったのかもしれない。

...わかってるよ。
だけどその...
今さらタイミングが掴めなくて...

嬉しそうに話をする璃子さんを盗み見た。

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