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淡雪

第21章 陵ちゃんの幸せ

反対の袖から顔を引き締めた坂井くんが出ていくのが見えた。
いつもバックヤードにいるからステージの彼を見るのは始めてだった。

ーー格好いいね、坂井くん

ちょっとキュンとした。

両サイドの袖からタキシードを着たモデルが次々とステージへ出ていく。

「リコ、ボーッとしてないであんたの番よ。
私は先に行くから、私がランウェイの先までいったら出てきなさい。
向こうの袖にはほら、陵がいるわ。
陵があなたの手を取ったらゆっくりランウェイを歩いてくるのよ。
そのあとは私が向こうで指示を出すわ。

大丈夫、緊張しないで」

マッドは私の頬にキスをしてウインクするとランウェイへ出ていった。

一際大きくなる喚声。

呆気に取られていると

「リコ、go」

と指示される。

私は大きく揺れるドレスを蹴りあげながらステージへ出ていった。
反対の袖から少し先に来た陵ちゃんが私を迎える。

「璃子、綺麗だ」

そう囁いて私の腕を自分の腕に組ませた。

するとランウェイが赤く染まる。
チカチカしていた照明が白のランウェイを赤く照らし、アップビートな曲がパイプオルガンに変わり空気か一変、荘厳な雰囲気に変わる。

「凄いな」

そう呟くと

「さあ、いくよ」

陵ちゃんが一歩踏み出す。
私も陵ちゃんのエスコートで歩いて行く。
一歩、一歩、ゆっくりと。

牧師の格好をしたマッドが優しく微笑み
会場のどよめきにゆっくり振り向いた坂井くんが目を見開き私を見つめる。

「璃子、幸せにしてもらえよ」

陵ちゃんが囁いて私の腕をほどき、坂井くんの手を取り握らせる。

「幸せに」

そう言った陵ちゃんはクルリとランウェイを戻り他のモデルが並ぶ列の中央に立った。


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