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淡雪

第22章 淡雪

以前のように病院の入口に医師と看護師が待っている。

僕は璃子さんを預けると車を停めに行った。

あの時は璃子さんは2ヶ月目覚めなかった。

今度は?

原因がわからない。

なぜ璃子さんは倒れたのか...


処置室の前で頭を抱えて待ち続ける。

ゆっくりと扉が開き、ストレッチャーに乗せられた璃子さんが出てきた。

「璃子さん!」

駆け寄ると

「賢夢くん話がある」

医師に呼ばれた。

医師の前に座ると、大きなため息ひとつ。

「大変なことになった」

「大変なこと?」

「普通なら喜ぶべきことなんだが...」

「?」

「璃子ちゃんは妊娠している」

え?
妊娠?

「結婚している夫婦だから、普通は喜ぶべきことなんだけど...
 賢夢くん、言ったはずだよ
 子供を望んではいけないと」

確かに...

「でも璃子さんはピルを飲んでいた はず」

「確かにピルの避妊率は高い。
 けれど100%じゃないよ。
 まさか賢夢くんは避妊しなかったのかい?」

...璃子さんがピルを飲んでいたことで安心していた。自分の欲望に負けて自分は避妊していなかった...

「妊娠は璃子ちゃんが望んだのか?」

医師の感情のない言葉

「いえ」

「君はすべてを引き受け、それでも璃子ちゃんと一緒にいたいと望んだはず。
 なのに、一番危険な状態にしてしまった」

俺は言葉もなく項垂れた。

「彼女の母親もその母親も子供を産んで命を落としている。
 それは知っているね」

「はい...」

医師は僕を一瞥して

「では、言うことはない」

診察室を出ていった。




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