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淡雪

第5章 槇 璃子

スタジオに入るとなんだか微妙な空気。


「ダメダメーーー!!

 もう1回いくよ

 ワタチャンどうしたの?

 君にとってはなんてことないシーンだろ

 勘弁してよ!!」


監督の怒鳴り声が聞こえる。


怒られているのは新人の男の子ではなく

大物俳優 渡部 拳だった。



監督の側に歩み寄る。


「すみません監督。お呼びですか?」


怒鳴っていた監督は興奮した表情のまま振り向いた。


「あ!槇ちゃんどこいってたの?

 ワタチャンがさ、うまくいかないんだ

 休憩入れるから頼むよ」


「わかりました。

 監督、握手してください」


「ん、事情は分かってるんだ。

 でも彼も俳優としてのプライドがあるだろ
 
 無下に帰れとも言えないからさ」


と小声で囁く。


私は監督と握手した。


監督の感情が私のなかに流れ込んでくる...


「わかりました」


私は監督を見つめ微笑んだ。


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