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淡雪

第5章 槇 璃子

お弁当をもらって部屋に戻る。


扉を開けると拳さんは畳の上でゴロリと横になり虚ろな瞳を泳がせていた。


「拳さん、先に食事されますか?」


「あとでいい」


「わかりました」


私は拳さんの横に座った。


「情けないな。

 俳優なのに自分の感情もコントロール出来ないなんて...」


小さな声で呟く。


「仕方ないです。人間ですから」


「槇ちゃんの力を借りるとは思ってなかったよ」


首を動かし私を見つめる。


「監督はわかっていましたよ。

 だから私が呼ばれた。



 無理しなくてもいい。

 でも、乗り越えてほしいからあえて拳さんにとって辛い役をお願いしたといってました」


拳さんの目に涙が滲んだ。


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