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淡雪

第6章 坂井 賢夢

「あ、ちょっ ちょっと待ってください」


僕は慌てて追いかける。


振り向いた医師は


「ご家族には連絡してあります。

 ご家族以外に詳しい話は出来かねますので」


医師ははっきりと言い放った。


そうだ、僕は家族ではない。


他人だ。


「じゃ、せめて...」


僕の肩を渡部さんが押さえる。


「お見舞いは構いませんか?」


渡部さんが落ち着いた口調で尋ねた。


「そうですね...

 ご家族に確認して承諾を頂ければ」


「分かりました。

 あとでご連絡させていただきます」


医師は渡部さんを見ながら


「こちらにご連絡頂いたのは渡部さんですか?」


と聞いた。


「はい」


「2~3日すれば落ち着くと思います。

 今のところ命に別状はないと思いますから」


「わかりました。

 よろしくお願いします」


渡部さんは医師に向かって深く頭を下げた。


医師も渡部さんに会釈を返し建物の中へ消えた。



運ばれる槇さんを呆然と見ていた。


渡部さんに肩を叩かれる。


「帰るぞ」


「はい」


スタジオに帰る車のなかは無言だった。



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