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淡雪

第6章 坂井 賢夢

彼女が目を開けないまま


もう二月近く。


本当に大丈夫なのか?


みんな何を隠している...



僕は今日も彼女の病室へ向かう。


病室といってもここは研究棟。

病院の敷地の奥まったところにひっそりと建つ。

病室は5つだけ。

今入院しているのは彼女だけ。


医師も看護師も最小限しかいない。


芸能人がお見舞いに来るにはもってこいの場所。建物の横の駐車場から入ればほぼ誰にも見られない。


「あ、渡部さん」

お見舞いを終えた渡部さんがこちらに歩いてくる。


あの日、槇さんが倒れたあとの渡部さんは人が変わったように物凄い演技を見せた。

そのオーラは共演者を呑み込むほどで、僕たちは渡部さんに呑まれないように必死に食らいついた。

自然ドラマの出来は桁違い。

ドラマで終わらすのがもったいないと言う声も出ている。


「坂井くんもお見舞いに?」


「はい」


「毎日来ているそうじゃないか」


「あ、まぁ。僕の出番は少ないですから」


俯きながら答える


「それだけか?

 まあいいが、あんまりのめり込むな

 君が相手になれるほど彼女は小さくないぞ」


カチンときた


「どういう意味ですか?」


「まあ、いろんな意味だ」


渡部さんはハハハと笑って通りすぎた。

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