齧りかけの林檎
第5章 ● 君の名前 ♀side
わたしが図書館に通っているのがわかったのか、
「こんばんは。こんな所で会うなんて奇遇ですね」
と言ってきた。
まさか覚えられているとは思わなかったので、少しだけ驚いた。
佐伯さんは図書館の仕事が終わり、新刊のチェックをしに来たらしい。
佐伯さんはミステリアスな感じで、なにを考えているのかわからない。
でもなんとなくだけど、直感で
こいつは絶対にチャラい
と思っている。
そう思っているだけで、実際のところどうなのかは知らない。
佐伯さんには全く興味がないからだ。
でも彼の薦めてくれる本は本当におもしろくて、
わたしの中で佐伯さんは本のソムリエであり、師匠である。