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祠の鬼

第1章 鬼の噂

名前を聞くなり沙夜はお礼を言って、まるで嵐の如く去っていった。



カウンター越しで深理がため息をつき、申し訳なさそうな顔をしながら手を差し出す。



「ゴメン、待たせた。本貸して」

「ぜ、全然です!」

「気を遣わなくてもいいのに。本好きなんだ、よく、借りに来てくれるよね花籠さん」

「え……」

「教室でもよく読んでるし、オレ図書委員でしょ」

「でも……わたし、沙夜ちゃんと比べて影薄いし……」

「杞憂だと思うけど」

「雨野くん……?」

「何でもない」



一瞬暗く翳(カゲ)ったような気がしたが、次の瞬間には何もなくて、まるで夢でもみていたようだった。



ありさが無言でいると、本を差し出され慌てて受け取る。



「あ、ありがとう」

「だってオレ図書委員だし。南田さんが戻って来るまで何か読む?新しく入った本があるよ、花籠さんが好きそうなもの何冊かあった」

「……うん」



この静かな空間に二人だけいるのは、照れ臭いような変な感じだと、思いつつありさは頷いた。



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