秘密の兄妹
第17章 春樹と風磨
「俺の言ってる意味、分かってないみたいだな…」
俺は春樹をじろっと見る。
「俺は本来、左利きなんだよ…
学校でも家でも右利きで生活してるけど、気を抜いたときに、左手をとっさに使っちまう。
よく、体育の授業でも左手や左足を使って、ヒヤヒヤしたこともあるんだぜ?」
「…………」
「俺が小6の時、じいちゃんと空手の試合式の稽古をしていて、ちょっと本気出して、利き足の左足で蹴りを入れたら、じいちゃんの足の骨、粉々に折っちまった…」
「それ以来、じいちゃんから【左は使うな】って言われて、今は右だけで突きや蹴りをしてる。」
「……祖父さんの足の骨を折ったことに負い目を感じて、大会に出ないようにしてるのか…?」
「いや、じいちゃんとの稽古は、ちゃんとした試合形式だったし、お互い本気で勝負して起こったことだから、別に気にしてない…
ただ、きちんとした大会で、左手・左足を使わないで勝っても、何か違うだろ?
手を抜いて勝つのって、武道の志に反してる気がする。
本気で勝負する気のない試合なんて、出る意味がない」
「谷垣にも、左手は一切使ったことないのに、余裕で勝てるんだ…
逆にそれが、俺には辛い」
「へぇ、スポーツマンシップってやつ?武士道みたいな?
風磨、お前、マジで格好いいわ!」
春樹は興味深そうに腹を押さえて笑う。