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アシンメトリーと君

第2章 日常

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外が暗くなり始め、店内が落ち着きを取り戻した時間帯。
そろそろバイトの時間も終了する。


「今日も凄かったね~」


エプロンを外し帰り支度していると、華さんがくすくすと笑いながらドアの端からひょっこりと覗いてきた。


「嬉しいような、嬉しくないような・・・。
凄く微妙な気分です」


苦笑いしながらエプロンを畳み鞄へ直す。

今でこそ少しずつ慣れては来ているけど、始めた当初は驚きの連続だった。

学校ではひっそりと静かに過ごしているためか、こういった感じで騒がれてしまうと心臓にとても悪いのだ。


「でも、憂くんが居てくれて本当に助かってるよ。

憂くんが居なかった時よりもお店の知名度も上がって、凄く活気づいてきたし。
 
明日もよろしくね」


そう言って、華さんは僕に微笑みかけてくれた。


「いえいえ。

僕こそ、こういう時間があって嬉しいです。
好きな本に囲まれてバイトが出来るなんて・・・。

学校では、全然違いますから――」


自分で言いながら、少し暗い気持ちになった。

今日も断れば良かったな・・・と再度また思い返してしまっている。


「ちょっとでも悩んでるなら、学校でもバイトと同じ様に振る舞えばいいのになとは少し思ったりするけど・・・。
周りの印象も変わるし・・・どうかな?」


華さんは、毎回バイト終わりに同じようなことを言ってくれる。

それは僕を思ってのことだと、僕自身もよく分かっている。

でも――


「いいんです。
僕は今のままで」


そして、同じようなことを返す。

同じ場所で止まってばかりで全く前に進んでいない。
ただ、踏み出す気持ちが煮え切らない。

こういう自分も嫌だ―――

今日は自分の欠点を見つけてばっかりだ。


「――そろそろ帰ります。
お疲れ様でした」


暗い気持ちを振り払うように、出来るだけ明るく言って店を出た。


「お疲れ様~
またよろしくね」

「はい」


華さんが、そんな僕の背中に明るく声をかけてくれる。

毎回こういうやり取りが、妙に落ち着いて安心する。
やっぱりバイトは僕の心の拠り所だ。

僕は葉桜になりかける木々を見つめ、ゆっくりと帰路についた。

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