アタシとアイツ【短編集】
第5章 第5章 映画館 *リクエスト
「ひゃっ!」
不意に手首を掴まれ、私は小さく悲鳴を上げる。
「ど、どうしたの?」
そのまま引き寄せられた私は、ユウにしか聞こえないような声で尋ねた。
「どうしたの?って
それはこっちのセリフだけど?」
そう言ってユウは微笑む。
「どうした?
もの欲しそうな顔して。」
耳元で囁かれ、思わず私は目を瞑った。
ユウの吐息が私の髪を小さく揺らす。
席は一番後ろ、同列に人はおらず、みんな映画に集中している。
少し顔を動かせばキスが出来そうな距離。
胸の鼓動はうるさいほど鳴り響いた。
「な、何でもない。」
私がぶっきらぼうにそう言うとユウはまた、いたずらに微笑んだ。
「何でもないようには見えないけど?」