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言葉で聞かせて

第9章 鳴き声、泣き声


「よし、じゃあ行ってくるわ」
「千秋さん、行ってきますね」


僕たちがスーツ姿で振り返ると、千秋さんはちゅ、と触れるだけのキスをして鞄を手渡してくれた


「はい。行ってらっしゃい、二人とも」


僕達は揃って笑う


顔が緩むのが抑えられないな


「おい悠史。いつまで笑ってんだよ。気持ち悪い」
「敦史もでしょ」


そんな言い合いをしながらエレベーターで下り、歩く


「そーいや、なぁ悠史」
「なに?」
「昨日アフターに行った女なんだけどよ、うちの店にきたの昨日が初めてだったんだよ」
「え、初めていらっしゃったお客様とアフター行ったの?」


僕が眉を寄せると敦史が「本題はそこじゃねぇよ」と肩をぺし、と叩いた

「ごめん」と謝ると敦史が続きを話し出す


「それで、最初は悠史を指名したらしいんだがお前は別のとこ行ったばっかで呼べなくて、俺に指名が来たらしい」


本命は敦史じゃないのに敦史とアフターに行ったの?
まぁ、鞍替えなんて珍しい話じゃないけど


「そんで、席に行った時にその女の鞄からチラッとお前の名刺が見えてたんだよ」
「えっ?」
「お前仕事外でもあの名刺渡してんのか?」

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