言葉で聞かせて
第9章 鳴き声、泣き声
敦史が今日話していた女性だって話だけ聞いた分にはただの性の不一致としか思えないし
他に、何か挙動のおかしかった人は……
「悠史、考えても無意味だぞ」
「わかってる。お店にお客様として紛れ込んでいるのかどうかもわからないのに、僕らを指名してるかもわからない。そんな状態でどこに何が潜んでるのかなんて、考えるだけ無駄だよね」
「あぁ」
気をつけようにも、気をつけようがない
情報を待つ以外何も出来ない
「仕事以外の外出は控えたほうがいいかな」
「逆だろ。むしろわかりやすく外出てたほうがいい」
「どうして?」
「家には千秋がいんだろ。俺らに恨みがあるなら俺らが外にいた方がおびき出せる」
なるほど
「確かに。敦史にしては頭がいいね」
「一言余計だっつんだよボケ」
女性絡みの恨みは怖いな
僕らはプライベートを詮索することは出来ないのに、恋人の男性から寝取られただなんだと言われても困るんだよね
それにしても、佐伯さんが情報を探し当てられないなんて珍しい
相当巧妙に隠して動いているか
もしくは
相当個人的な恨みによるものか
本当は恨みの対象が僕らとは全く関係なくて、警戒するのも全部見当外れだったら一番いいんだけどね