
言葉で聞かせて
第10章 再来
女性らしい丸文字で書かれていたのは
『柏木』(カシワギ)
珍しい名前じゃない
でも僕が人生でその名前に触れたのは一度だけ
大学時代
僕の、一番忘れてしまいたい記憶
その中心にいた女性
僕の元恋人
僕を騙した人
手が震えてる
背中が冷や汗でべたべたする
開きたくない
でも見なきゃいけない
どうして僕の居場所がわかったんだろう?
どうして
裁判で罪を問われた彼女は執行猶予無しの懲役1年という判決が下った
確かにあれからとっくに1年以上経ってる
怖い
怖いよ……
とにかく開く前に一旦落ち着こうと重いファンレターの入ったダンボールを部屋に運んだ
でも大した時間稼ぎにもならず、結局は机に置かれた封筒だけが残ってしまった
「……よし、開けよう」
自分で自分に喝を入れるためにふんっ、と頬を手で叩く
未だ震える手でハサミを取る
端っこを切って中身を取り出して見ると、中身は一枚の紙と数枚の写真だった
紙には
『○○駅南口』
と、この家の最寄駅から数駅の駅名が書かれている
来い、ってことなんだろうか
行きたくない……けど……
「!!」
写真を見てそんなことを言っている場合ではなくなってしまった
