言葉で聞かせて
第11章 記憶
「「ただいま」」
玄関を開けて、揃って出た帰宅を知らせる声にリビングから千秋さんがひょっこりと顔を出した
そしておかえりなさい、と微笑んでくれる
歩み寄ってきた千秋さんが僕たちの持っている大きな荷物を受け取ろうとしてくれて、「大丈夫ですよ」と制した
渡せないよ
この中身スーツだもん
実はあれ以来僕たちにすっかり懐いてくれた千秋さんなんだけれど、ホストだって言うタイミングを逃したままで
僕たちは同じ会社の違う部署に勤めていて、帰る時間や家を出る時間が一緒
ただ仕事の関係で家を出るのが早まることもある
そんな設定を適当に作り出したのは僕
ある日
『お二人は僕のために休職して下さっていたんですよね?もう大丈夫なので、再開されてはいかがですか?』
と千秋さんが効いてきた
「あーー……そうだな……そろそろ行ってもいいかもな」
「うん。大事なことは片付いたしね」
僕たちが休職していることに心を痛めていたのか、仕事を再開すると聞いて千秋さんはほっとしたような顔をした
そして
『なんのお仕事をされているんですか?』
と質問をしてきた
「ホ……ーー」
「普通のサラリーマンです」
僕はホストだ、と言おうとした敦史を遮った