言葉で聞かせて
第11章 記憶
だって中途半端にまたトラウマをほじくり返すわけにはいかないでしょう?
記憶が戻ったら思い出すだろうからそれまでは忘れていてもらいたい
その思いを汲んでくれたのか敦史は僕を黙って見つめている
「同じ会社に勤めているんです、僕たち」
『そうなんですか。仲良しですね』
ほわん、と笑う千秋さんに癒されるけど
仲良しは……何というかむず痒い表現だね
そういうところに若さを感じるなぁ
「そんなことないですよ」
『こんなに格好良い人が二人も勤めているなんて、羨ましい会社ですね。僕もそんなところに就職したいな』
千秋さんは大学を卒業してからも就職せずに小説を書いていることに実感がないのかそんなことを言っていた
それから家を出る時間や帰る時間を伝えるようになり、同伴やアフターへ行く際に聞かれた質問で徐々に変な設定が増えてしまった
『今日もおつかれさまでした』
大きな荷物(派手なスーツ)を部屋に置いてリビングに入った僕らに千秋さんはそう言って夕食をだしてくれた
と言ってもお酒は浴びるほど飲んできたので口直しの軽食程度のものなんだけれど
『しっかりしたもの食べなくて大丈夫ですか?』
「えぇ。僕たちはそもそもそんなに食べる方ではないので」