言葉で聞かせて
第11章 記憶
これで否定したって無駄だってことを千秋さんもわかっているのか、おずおず紙とペンに手を伸ばした
『この前の話、なんですけど』
この前?
っていつのことだろう?
『今の僕のことも 好き なんですか?』
躊躇いを感じるその文面にあの時のか、とわかりはしたけれどどちらの答えが欲しいんだろう、と考えてしまう
けれどまぁ嘘をついても仕方ないですよね
「えぇ。千秋さんのことが好きです」
率直にそう伝えると千秋さんは顔をより赤くする
『お付き合いしていた んですよね?』
「そうですよ」
『それ って 』
それって?
付き合うって?
何だろう
次の言葉が僕には予測できない
次に書かれる言葉を千秋さんの手元に注目して待っていると、千秋さんは何度もペンを紙に付けては離しを繰り返し漸く書き出した
『どんなことをしていたんでしょう?』
「どんなこと……というのは、恋人としてということですよね?」
こくん、と頷いた千秋さんは顔を上げて僕の方を見た
期待?不安?
なんの表情なんだろうか
「普通に恋人と言って思い浮かぶようなことをしていました。一緒に買い物へ行ったり、水族館へ行ったり」