
言葉で聞かせて
第11章 記憶
納得出来たように笑った千秋さんは立ち上がると敦史を引き寄せて、僕と纏めて一緒に抱き締めた
「「!」」
僕達に抱きついた千秋さんは頬ずりをしながら強く抱き締めてくれる
「千秋さん?」
「千秋?」
僕達が驚いていると、一層手に力を入れた千秋さんがゆっくり離れた
そして紙に
『本当に僕は僕が羨ましい』
と書いた
何度聞いたかわからなくなるほど言われたその言葉は、昔の千秋さんも僕達のことを好きになってくれたんだって実感できて本当に嬉しい
でも記憶を無くした千秋さんと記憶のある千秋さんを完全に別のものだと考えている千秋さんに、なんとなく僕は手が出しづらい
だって自分が自分の代用品だと思わせてしまいそうで
そんなことあるわけないのに
僕が悩んでいると、そんなこと露知らずそうな敦史は軽々と千秋さんを抱き上げた
「お前が一人で気にしてるだけだろ。俺たちにとってはお前も恋人だ。何度も言っただろ」
「……」
言葉が出ないから当然なんだけど、千秋さんは黙って敦史を見つめている
「実感させてやるよ。お前がちゃんと俺たちの恋人だって」
そう言うと敦史は僕に視線を移した
