
言葉で聞かせて
第11章 記憶
僕たちが千秋さんを運ぶより前に寝息を立てていた千秋さんは運んでいる間も身体を洗っている間も後ろを清めている間も全く起きることはなく、大人しかった
ドロドロになってしまった千秋さんの部屋のシーツは洗い物に出して、とりあえず敦史の部屋に入る
敦史の好きな香水の香りがした
「……なんだったんだろな、千秋。さっき変だったよな?」
千秋さんを真ん中にして両サイドに寝転んだ僕たちは千秋さんの顔を眺めながら小さな声で会話する
「うん……僕たちが何かしてしまったとかなのかな……」
「ただセックスしただけだろ」
「その性行為に違和感があったのかもよ?」
僕の言葉に敦史は大きく眉を顰めた
「はぁ?どういうことだよ」
「シてる途中で僕たちのこと好きじゃないって気がついちゃったとか」
「なんだそれ。……笑えねぇ冗談だ」
もちろん今のは冗談だけど
疲れただけじゃあんな放心状態にはならないよね
本当に、どうしたんだろう
嫌なこと思い出したりしちゃったかな
20歳のときは男達に抱かれていたみたいだし
あぁ、それはありえなく無いな
自分で変なことを考えては落ち込んでいると敦史がドサ、と勢いよくベッドに倒れた
「考えてても仕方ねぇだろ。……寝る」
「うん」
僕もとりあえず今日は寝よう
明日聞いてみればいい
