言葉で聞かせて
第12章 忘れられないこと
俺は悠史の額を指で弾いた
「痛っ」
「んなわけねぇだろ。変なこと言ってんな」
「ふふっ」と笑っている悠史を放って俺は席を立つ
確かに今日は変なこと考えすぎだな
しかし俺の変な考えも全部客の女の甲高い声で掻き消された
数々のアフターの誘いを断って家に帰る
珍しく羽振りの良い客が入れた酒を勧められるままに呑みすぎた
若干視界が揺れる程度には酔ってる
こんな状態で家に帰んの気が引けんな
あーーあったま痛ぇ
「ただいま」
玄関から帰宅を告げる声を掛けるが何時もはある反応が今日はない
「?」
家に上がってリビングに入ってみると、千秋は机に突っ伏して眠っていた
時計を見ると
あー何時もより少し遅くなったのか
帰りフラフラしてたせいかもな
起こすのも悪いからそっと抱き上げて自分の寝室に運んだ
長いことそこにいるからか俺には自分の部屋の匂いはわからないが、千秋は寝ていても俺の部屋だとわかったらしく小さな声で「……っ、しさ……」と寝言を言った
自分の名前を呼ばれた嬉しさから顔がにやける
やべ
だめだ
酒ばっかり飲んでいたせいか腹が空いてるわけじゃないが固形物を胃に入れたい
俺は千秋を自分の部屋に置いたままでリビングに戻った