言葉で聞かせて
第12章 忘れられないこと
誰も気がつかない程度の事だろうがいつもより少し姿勢が悪い
それに目元に小さなクマ
帰ってきた時からだが声のトーンも低い
「まぁ……そうだな。見えるな」
俺の答えに悠史はまた息をついた
「そう、なんだ……」
「……俺しか気づかねぇよ。多分な」
「うん。僕も多分敦史しか気づかないと思う」
「はっ、なんだそれ」
「本当のことでしょ」と笑う悠史につられて俺も笑っていると、廊下が軋む音がしてもう一人キッチンに入ってきた
「千秋さん」
「悪い。起こしちまったか?」
「いいえ」と首を振った千秋はまだ眠そうで目を擦っている
「眠いんならまだ寝てろ」
「ん、ぅーー……」
いや、と再び首を振った千秋は目を擦るのをやめない
俺はその手を掴んで止めて俺の胸に引き寄せた
「ほら、寄りかかってろ。運んでやるから」
千秋はまた何か言いたげに唸ったが、眠気には勝てなかったのか俺に体重をかけてきた
「寝るわ」
「うん。おやすみ」
「あぁ」
千秋の姿に多少癒されたのか穏やかな笑みを浮かべた悠史を残して俺は千秋を抱き上げる
俺の部屋に入ってベッドに下ろすと千秋は俺の服の裾を掴んで引っ張った
「ん?」