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言葉で聞かせて

第12章 忘れられないこと


「座ってください!」


目を輝かせながらそう俺に言い放った千秋の片手にはドライヤー


「あ?俺が座んの?」
「はい!」


首をかしげていると、千秋は少し落ち込んだような顔をする


「だめ……ですか?敦史さんや悠史さんに髪を乾かしてもらうことが多いので、今日は僕がって思ったんですが……」


上目遣いで俺を見上げる千秋は店に来る客の女と比べ物にならないほど可愛い

いや、その辺の芸能人よりいいな


「そうか。なら、頼む」


自然と微笑んだ顔をそのままに俺は椅子に座った


暖かい風を頭に当てられながら千秋の細い指が俺の髪の毛を梳く


「髪、さらさらですね?」


鏡ごしに上機嫌な千秋が見えて、俺もこっそり微笑む


「そうか?染めすぎて傷んでんだろ」
「そんなことないです。綺麗です」


俺が自分でやる時は適当にがしがし髪を掻き回すせいか、千秋の優しい手つきは擽ったいようなじれったいような感じがする


「熱くないですか?」
「あぁ」


ぼんやりと鏡を眺めていると、千秋のドライヤーを持つ手が震えているのが見えた


重いのか?
なんかさっき椅子も重そうにしてたし

力がねぇとかそういう次元じゃねぇんだけど

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