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言葉で聞かせて

第13章 言葉で聞かせて


今日は敦史がアフターで、家に帰るのは僕一人


「ただいま」


仕事を終えて玄関で声をかけると、千秋さんがいつも通りひょこっと顔を出した

その顔が微笑む


「おかえりなさい」


僕も微笑み返して、二度目の「ただいま」を言った

スリッパを鳴らしながら近寄ってきた千秋さんが鞄を受け取ってくれて、靴を脱ぐ

一緒に歩きながらリビングに向かっていると


「お疲れ様でした」


と声をかけてくれた


この会話
新婚さんみたい


「ふふふ、ありがとうございます」


リビングでジャケットを脱ぐと、千秋さんがそれも甲斐甲斐しく受け取ってくれた

ジャケットをハンガーにかけた千秋さんが何故か鼻を鳴らす


「どうかされましたか?」
「今日はタバコの臭いが強いな、と」
「そうですか?」


お客さんでタバコを吸っていた人を思い浮かべていると、千秋さんが洗面所から脱臭用のスプレーを持ってきてジャケットに吹きかけた

部屋の中が作り物の甘い香りに包まれる

千秋さんが再び鼻を鳴らして、「よし」と呟いた


「夜食、今準備しますね」


僕を振り返って微笑んだ千秋さんには、何か、違和感


「千秋さん?」

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