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言葉で聞かせて

第13章 言葉で聞かせて


膝の上でもじもじと指を擦り合わせて、それをひたすら眺める

どうしよう、どうしようってそればっかり考えていると、車が停車した


うそ……!?
もう家に着いちゃったの!?


僕が焦って顔を上げると、窓の向こうにあったのは見慣れたマンション
ではなく、見たこともない緑に囲まれた駐車場だった


「ここは……?」


僕が小さな声で疑問を口にしている間に、敦史さんと悠史さんがシートベルトを外している


えっ……えっ……?
降りる、の……かな


「千秋さん、少し、歩きましょうか」


悠史さんが後部座席にいた僕を振り返って微笑んでくれて、久しぶりにみた笑顔に安心した


「はい……」


僕もシートベルトを外して車から降りると、夜の冷たい風に吹かれる


「寒いですか?」
「いえ、ちょっと風が強くてびっくりしただけです」
「寒かったら言ってくださいね」
「はい」


さっきの沈黙した車内はなんだったのかと思うほど悠史さんは自然に接してくれた

今のうちに謝ってしまおうかと思ったけれどそんな雰囲気でもなくて、結局僕の口から出たのは


「ここはどこですか?」


っていうなんの変哲もない質問だった

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