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言葉で聞かせて

第13章 言葉で聞かせて


『僕、ね……』


漂う空気に話しかけるような、静かな声が響く

ここにある空気は、いつだって自分達を見てきたから
それらに真実を伝えるように、そっと震わせた


『?』
『千秋さんが敦史の方が好きなんじゃないかって思った時、千秋さんを僕の方に振り向かせてやるなんて思えなかった』
『……』


一度背けて、もう一度顔を合わせる
きっと相手も同じようにしただろう


『僕が世界で1番幸せになって欲しいのが、敦史だったから』
『………………んだよ、それ……。そんなの……』
『……』
『俺だって、同じだよ。馬鹿』
『え?』


気が抜けたような声が聞こえた


涙が出そうだ


『俺も、お前から千秋を奪おうなんて考えてもなかったっつの。千秋は悠史が好きなのか、なら俺が身を引くべきだってすぐに思った』
『嘘……』
『……この状況で嘘なんかつけるほど俺の神経は太くねぇよ』
『敦史……だって、僕は……敦史、は……僕が1番辛い時に側にいてくれた……僕のことを誰より早く理解してくれた。千秋さんが現れるまで、僕の唯一の理解者だった…………だから、僕は敦史に返しきれないほどの恩があるけど、敦史はーーー』

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